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4話-2 魔を祓う力。

last update Last Updated: 2025-04-04 20:00:04
「やはり、何かあったのだな」

「なぜ、ここまできた?」

もう、話すしかない。

「嫌な夢を見て、気分転換に夜風にでも当たってこようと思って…………」

「嫌な夢、とは?」

「4歳の時にローゼ伯母さまに教会まで連れて行かれ、魔を祓う力があるかどうかの儀式を行った夢です」

「ご主人さま、わたしは両親のことをよく知りません」

「なので、両親について詳しく教えて下さいませんか?」

真剣な眼差しで尋ねると、

エルバートは、分かった、と答え、話し始める。

「お前の父、ロイス・オズモンドと」

「お前の母、ラン・オズモンドには魔を祓う力があり、オズモンド家は代々、その力を引き継いでおり、特にお前の両親は力が強く、金持ちだった」

「この国では、力がある家系は国から保護され、皆、金持ちだ」

「しかし、お前が3歳の時に両親が前皇帝と同じ魔に殺され、亡くなった。

それを良いことにローゼはお前を引き取った時、かなりの遺産も手に入れている」

「よって、ローゼはお前にその事を知られたくない為、家系や力の事を隠していた」

「もちろん、お前に力があれば、もっと金がもらえたので期待したが」

「お前に力がない事が分かり、落胆したそうだ」

(ローゼ伯母さまは、やはり嘘をついていたのね)

両親の力のことを知っていた。

それゆえ、力がないことが分かり、つらく当り、

自分を虐げていたのだ。

フェリシアはこれまでよりも強い絶望感を抱き、胸を痛め、涙が止まらなくなると、

エルバートは月にその姿が見えないよう、

自分の手を引いて抱き締め、全てを包み隠した。

* * *

そして翌日の午後。エルバートは執務室でため息をつく。

深夜、中庭で思わずフェリシアを抱きしめてしまった訳だが、

フェリシアは今朝も美味しい朝食を作り、見送ってはくれるも元気がなく、

自分もさっさとその朝食を一人で済ませ、家を出てきてしまった。

「エルバート様、午前の軍の指導の時からずっと、どこか上の空ですね」

「原因はフェリシア様ですか?」

「ディアム、なんだか、嬉しそうだな」

「エルバート様らしくないお姿が新鮮でして」

(らしくない、か)

確かにディアムの言う通りだ。

勤務中だというのに、元気のないフェリシアの顔ばかり浮かんでしまっている。

「エルバート様、一度、羽を伸ばしてみてはいかがでしょうか?」

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